「都市拾遺物語」
"Tales - Metropolis Collection"
僕たちは全てを知っているわけではない。
例えば今日、ここまで来た道の、全ての名前を言えるだろうか。
見た木や車、建物、それに出会った人々の名前。少なくとも僕にはわからない。
都市の中で注目を集めるものはごくわずか。建築であればランドマークであり、人であれば一部の有名人だけ。大きな道に名前はあるけれど、小さな道には名前すらない。まれに誰かに名付けられた草木もあるけれど、多くの草木は一本一本に名を持たない。花の名前はあるけれど、人が一人一人持つように、花の一輪一輪に名は持たない。人ですら、ニュースやドラマに登場する人たち以外は群衆であり、都市生活者のひとりでしかない。
都市を形作るのは、名もなき人であり、物であり、事柄が大多数。そんな名もなき人や草花、動物や建物に、一筋の光を当ててみたらどうだろう。見逃してしまいそうな一瞬にも、心ふるわすような魅力的な原石が、眠っていないとも限らない。
都市の中で見いだされそびれた物語を集めてみようと思う。耳目を集めるものとの違いは何だろうか。
そもそも違いなんて、あったのだろうか。
佐原和人
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